近年、世界中でデジタル環境が加速化する中、IT業界は右肩上がりの成長を続けており、日本だけでなく世界中で慢性的に人材不足の状態が続いております。また、IT需要は今後もあらゆる業界で拡大が見込まれていることから、IT人材の不足は今後も続くことが予想されています。
弊社でも海外転職を考えるIT人材の候補者からご相談・お問い合わせをいただくことが増えてきました。そこで、「憧れの海外転職を叶えたいけれど最新の情報が分からない」「IT業界に特化した話を聞きたい」という方向けに、今回から5回に渡り、
「ITx海外転職 ~IT人材とシンガポール就労~」 シリーズとして、転職マーケットに精通したコンサルタントがわかりやすく解説して参ります。
シンガポールのIT求人マーケットの現状と動向
IT求人需要の推移
海外転職というと、やはりまずは外国人就労ビザの取得が気になるところだと思います。特にシンガポールでは近年「就労ビザの取得が難しくなった」という話を耳にした方も多いかもしれません。
Employment Pass(以下、EP)の発給基準に関しては、2年前に2度に渡る引き締めがあり、ビザ取得が狭き門となりましたが、今年2022年9月からは更にもう一段厳格化されることが発表されております。
詳しくはこちら→ 9月からEP・Spass発給基準の引き上げ!さらに、来年9月から新ポイント制度「COMPASS」導入へについ · JAC Singapore (jac-recruitment.sg)
では、シンガポール就労は諦めなければいけないのか…と思ってしまいがちですが、実は決してそのようなことはないのです!
前述のようにIT人材の方からの海外転職のご相談が増えている一方で、企業側からの採用ニーズも高まっており、IT人材の求人として様々なポジションでのご依頼が増えています。
以下のグラフは過去3年間に弊社で転職支援をさせていただいた「外国人が応募可能なIT求人数」の推移を表しています。
※JAC Singapore自社調べ
グラフから読み取れる通り、新型コロナウイルスのパンデミックにより採用の中止などもあった2020年と比べ、2021年~2022年前半は、EPの発給基準の改定があったにもかかわらず企業の採用活動は順調に回復しているのが分かります(弊社の業界別売り上げランキングでもITは常に上位クラスです)。
つまり、求職者と採用企業という2つの要素の需要と供給がマッチしている今こそ、シンガポール転職の絶好のチャンスと言えるのです!
なお、先ほどの補足説明として就労ビザの話に戻りますが、企業によってはEP以外にもSpassという就労ビザの取得ができますので、就労ビザの問題だけが海外転職の阻害要因となるケースは実はそう多くはありません。実際に採用に至らなかったケースの理由としては「経験の不一致」が挙げられることが多いです。海外のIT職の場合、未経験で採用される事例はほぼありません。即戦力となる高い技術力(専門性)と実務経験の両方が求められる、という点を押さえておくことがポイントになるでしょう。
シンガポールで働くことで得られる“経験”
では、シンガポールで働くことで何を得られ、どう成長し、次のキャリアへつなげられるのでしょうか。以下に、筆者の経験を踏まえていくつか挙げさせていただきます。
1. グローバルな環境で働くことができる
シンガポールに地域統括会社(Regional Head Quarter)を置く企業が多いため、国際競争力の高いシンガポールでの就労に加えASEAN諸国またはAPAC諸国のビジネスに関わったり協働することができます。
2. 語学力アップが図れる
シンガポールの公用語は4か国語ありますが、ビジネスシーンでは英語が使われます。多くの企業が、英語でのプレゼンやレポーティング、商談経験などについて問いますが、中には基本的な英語力があれば語学力はポテンシャルを見るという企業もあります。利用頻度はそれぞれですが、英語ネイティブの同僚と働くと、場面に応じた表現の使い方を自ずと学べる上、日々アウトプットする機会もあるので語学力は確実に上がります。
3. マネジメント層との距離が近い
多国籍で多文化の社員が集まる職場では、コミュニケーションが大事とされることから、上司・部下の垣根なく、誰もがコミュニケーションを取りやすい環境にあり、フランクで風通しの良い雰囲気の職場が多い傾向です。上司への提案や要望も言いやすかったり、マネジメント層とコミュニケーションを取る機会も増えます。社内で顔を合わせても気軽に話ができたり、ヒエラルキーの概念はほとんどなく、それが働きやすさにつながっていると感じています。
上記3点は比較的どの業界でも共通して言えることです。
以下に、さらにIT業界に特化した事項を挙げますと、
4. 世界中から集まってきた優秀な人材から技術・スキルを学ぶことができる
いわゆるIT大国と呼ばれるインドなど、世界中からレベルの高いエンジニアを始めとするIT人材が集まっていること、また起業しやすい制度が整っているため最新のテクノロジーを使うスタートアップ企業も多いことから、そのような環境に身を置くことでインスパイアされテクニカルスキルをブラッシュアップするということも可能です。
5. 専門性を高められる
たとえばエンジニアやプロジェクトマネージャー等の職種では、アプリとインフラの大きく2つに分けられ、どちらかを極めながら専門性を磨いてキャリアアップを図るということが一般的です。分業化された職務に対して人を採用するというスタイルのため企業内で職種をまたいだ異動もほぼなく(昇格昇進を除く)、極めたいスキルがある方にとっては自己成長の場として最適です。
いずれ日本に帰国するにせよ、シンガポールで働き続けるにせよ、他の国に移って働くにせよ、確実にキャリアアップでき国際社会に通用するグローバル人材となるステップの一つになるというのがシンガポールで働くことの大きなメリットと言えます。
シンガポールにおける就職・転職に関するご質問またお困りごとなどがございましたら、お気軽にご相談ください。 |
シンガポールIT業界の職種と求められるスキル
即戦力となる“専門性“
日本では、企業の採用方法として、大きく分けて「新卒採用」と「中途採用」の2つが一般的です。
「新卒採用」は、毎年同時期に一定数の人材を一斉に採用し、未経験から長期的に人材を育成して将来活躍してもらうことを目的とする採用であることは皆さまご周知のことと思います。ただ、これは日本独自の採用方法で、海外では日本の「新卒採用(一から人材を育成する)」という概念とは異なります。企業は人材が必要になったタイミングで随時募集や選考をしています。
シンガポールも、新卒という枠があるわけではなく(もちろん新卒者の採用がないわけではありませんが)、細かに業務内容と必要な経験や知識と資格が明確に提示され、入社後すぐに活躍できる人材が求められます。即戦力を求める企業が多く、通年採用を実施しています。
「人材がいて仕事を与える」という考えよりも、「仕事があり、そのために最適な人材を採用する」という考え方が根底にあるため、“何でもできます!”というアピールだけでは、企業側には、“この方は一体何ができる人なんだろう?”という印象を与えてしまうことになります。特にIT職種ではそれが顕著に見られ、より専門性の高いスキルを持つ人材が求められる傾向が高いです。
では実際にはどのような「専門性」がシンガポールでは求められるのでしょうか?
具体的な職種・ポジションを例に挙げて見ていきましょう。
職種とキャリアパス
■IT営業関連の職種
《例1》 Business DevelopmentやHunter Sales(新規開拓営業、新事業立上げの営業)
→ 担当開拓マーケットに精通していることや開拓件数及び案件化数の実績が重視される。
《例2》 Account Manager(既存顧客アカウントを担当し様々なソリューションを提案)
→ こちらも担当業界や取扱うサービス・製品の種類に精通していることや売上実績が重視される。
《例3》 Pre-Sales
→ RFP(Request For Proposal)の対応等ソリューション提案時に技術的な部分の提案スキルが求められる。
《例4》 Customer Success, Technical Support → ポストセールスの経験が重視される。
■ITエンジニア関連の職種
日本との最も大きな違いは、いわゆるシステムエンジニア/SEという職はなく、【アプリ】か【インフラ】のどちらか(もしくは両方)の専門により細かく分類されていることです。
【アプリが専門の場合】
指定されたコーディング言語の経験はもちろん、シニア職ではSDLC(Software Development Life Cycle)へ精通していること、Agile開発手法、要件定義、設計、開発、リリースといった一連の業務を経験していることが重視される。Data ScientistやMachine Learning Engineerの場合は大学・大学院で専門分野を履修していることが条件になる場合が殆ど。
- Software Engineer (Back-end, Front-end, Full-stackと分かれている)
- iOS/Android Developer
- QA Engineer/Testing Engineer
- Data Scientist/Machine Learning Engineer
【インフラが専門の場合】
インフラ及びネットワークの設計・構築・実装ができることはもちろん、10~15年以上の経験を求められることが多く、Architect職ではシステム全体の設計・構築ができること、実務経験に加えAWS Solution Architectの資格保持者であることが条件となる場合が多い。
- Infrastructure Engineer
- Network Engineer
- Cyber Security Engineer
- Cloud Architect/Cloud Engineer
- Solution Architect
【アプリ・インフラ両方の部分的な経験が問われるもの】
新しい職種のため数自体は少ないものの、アプリ・インフラのどちらのバックグラウンドでもクラウド関連の技術(KubernetesやDockerなどのコンテナやオーケストレーション)とスクリプティング(Shell, JavaScript, Python等)が求められる。アプリとインフラのどちらの経験が重視されるかは企業によって様々。
- DevOps Engineer/SRE(Site Reliability Engineer)
■ITエンジニアのキャリアパスについて
アプリ、インフラのエンジニアをある程度経験したら、技術職としてキャリアアップするか、その経験を生かしてビジネス側へ移るかの選択肢があります。ビジネス側の職種としては大きく2つが挙げられます。
① Project Manager(Leader/Consultant)
② Business Analyst
- Project Managerは、SAPなどのERPシステム、金融機関向けシステム、製造業向けシステムの開発と導入、クラウド移行、サイバーセキュリティー等、経験分野に指定がある場合が多い印象です。
- Business Analystは聞きなれないかもしれませんが、エンドユーザー側の要望等をストーリーにして開発要件へ落とし込むこと等を業務とします。
職種別に考えられるキャリアパスの例
例1)アプリ人材が技術を極める
Software Engineer -> Technical Lead -> Engineering Manager
例2)アプリ/インフラ人材がビジネス寄りに進む
Software Engineer/Infrastructure Engineer -> Project Manager
例3)インフラ人材が技術を極める
Infrastructure Engineer -> Cloud Architect
このようにシンガポールのIT関連の職種は、専門性をベースに分業されております。
転職をお考えの際には、まず「自分の専門性や強みは何かを知ること」、そして「専門性に磨きをかけること」が重要になってくると思います。それがシンガポール転職を成功させる上で大きなポイントになると言えるでしょう。
シンガポールにおける就職・転職に関するご質問またお困りごとなどがございましたら、お気軽にご相談ください。 |