Connecting...

戻る
Blog Img

【記事】グローバル人材戦略セミナー 2022/6月

日系企業の経営現地化・権限委譲 現地社員は駐在員を代替できるのか?

6月9日(木)にJAC Recruitment「第2回 グローバル人材戦略セミナー」を実施いたしました。今回は、前回の議論の際、1つのポイントとなった「日系企業の経営現地化」をテーマに、社外からゲストスピーカー(事業会社の現地法人社長)をお招きして実際のご経験をお話頂く形式で実施しました。


ゲストスピーカー

TeamSpirit Singapore Pte Ltd.
Managing Director 中野 様

※同社HP: TeamSpirit | Make Everyone An Innovator

基調講演1:「現地法人ゼロからの立ち上げ、失敗と現在」

海外事業の立ち上げを模索する中、日本にて採用が難しい優秀なエンジニアをシンガポールで採用しようというアイデアをきっかけに、現地オペレーションの強化をスタート。比較的短期間での採用には一旦成功するも、その後のリテンションで思わぬ失敗を経験。その際の失敗原因を「市場変化の動向をキャッチしきれなかった点」「日本本社の経営陣を説得しきれなかった点」と分析。継続的・自律的な現地オペレーションを確立するうえで、組織強化を片手間で捉えてしまったという反省を基に、信頼できるHRマネージャーをまずは採用する方針をセット。しっかりと人物選定を行ったうえで採用した人物が期待以上の活躍をしてくれ、現在ではそのHRマネージャーからの提案を基に、適正な昇給率の策定、日本比で大幅となる昇給の本社承認・理解の獲得、現地社員におけるエンゲージメント施策の立案・実施が可能な状態となる。今後の課題は、よりグローバルなビジネス拡大に向けての経営幹部層の多国籍化。


PT. TOKKI ENGINEERING AND FABRICATION
President Director 湯之前 様

※同社HP: Home - PT Tokki Engineering And Fabrication (tef.co.id)

基調講演2:現地化の方向性と進捗、ローカル市場への取組み、幹部社員の起用方法及びワクワク提供による相互成長

現地化の必要性は「コスト削減」からスタートするも、よりエンパワーメントを志向した施策を継続的に展開。5年間で売上を2倍にする(特にローカル市場へのマーケットインを重視する)事業計画の元、遠隔地の現地顧客へのサービス拡充のため大規模な設備投資を実施。コロナ禍を経たにもかかわらず、現地域内企業向けの売上げも順調に伸び、ローカルのマーケットインに成功。そうしたビジネス拡大と同時並行で、社員が楽しみながら仕事ができ、また、会社や会社施設・生産設備に愛着を持つことができるような環境整備を中心に、従業員のエンゲージメントを高める施策を継続して実行。キーワードは「ワクワク」。直近では、新工場の建設と共に、社内で育ったリーダー人材を現地拠点の工場長兼執行役員(AD)に登用。大きな会社方針は現地法人社長から示しつつも、ジャカルタから離れて立地する各工場の運営については登用したADに権限を与えて、彼らがマネジメント主体となる体制を確立。多くの現地社員にとっても、日本人以外の仲間が幹部登用されたことでモチベーションが高まっている。


パネルディスカッション

論点: 頼りになるHRの存在 / 報酬・諸施策 / 思いとメッセージ 「現地社員は駐在員を代替できるのか?」

TeamSpirit Singapore社においてキーパーソンとなったのが現地HRマネージャーの存在。確かに厳選採用ではあったが、仕事を任せてみると想像以上のパフォーマンスを発揮してくれている。同HRマネージャー採用時には、MDから直接、会社が経験した失敗談もオープンに開示。課題と共に任せたいミッションを語り、理解してもらったうえでジョインしてもらっている。昇給施策については、ただアップするだけでなく、MDと社員との1対1ミーティングを通して従業員にオープンに反省点も伝えながら、会社をより良くするための努力をする旨コミットを約束しつつ通知している。

中野社長の誠実さが伝わってくるエピソードが伺えました。

Tokki Engineering and Fabrication社において、新工場の竣工と共に、今回、サイト・マネージャーとして頼れるリーダーに成長したインドネシア人スタッフはオペレーターからの叩き上げ。現在は、周囲のスタッフからの人望も厚く、また、率先して業務指示を行うなど熱意溢れる勤務態度が光っているが、オペレーター時代においては、顧客への納期意識こそ高かったものの、社内の設備や職場環境については無頓着で初めからリーダータイプではなかった。そんな彼を事業進捗と共に顧客の傍に置き、リーダーを任命したことで意識が高まり、社長の思いをくみ取ってくれる存在に成長。彼自身が中心となり現地化がグッと前に進む契機となってくれた。

湯之前社長における「現地社員の個性と持ち味を活かした起用」への思いと、社員への愛情が伝わってくるエピソードでした。


まとめの考察(イベント企画者として)

今回、①「これからに向けての工夫をスタートし始めた企業(次の課題は現地人材の幹部育成)」と、②「マーケットインと組織構築がある程度進んだ上で更なる工夫を検討している企業(次の課題は登用した現地幹部の活躍)」という経営現地化の異なるフェーズにあるお二人のゲスト講師をお招きしました。

フェーズの違いこそあれ、お二人に共通していた点は、「現地人材の定着(エンゲージメント)」に最も力を注いでおられるということです。

どんな企業であれ、幹部登用(昇進昇格)の基準は、「国籍」などの属性ではなく、「パフォーマンス」や「人間性」であることは間違いありません。ただ、そのパフォーマンスや人間性をジャッジする手前で、会社へのコミットメント・エンゲージメントを高める、そのためにポジティブな環境を提供する、また同時に、経営者の思いをしっかりと伝達するというプロセスが経営現地化の成功確率を高めるうえで必要不可欠なのではないか?と感じました。

お二方のお話をふまえ、経営現地化のステップを単純化すると、「採用」→「定着」→「幹部化」となりますが、これは成り行きに任せていれば自ずと進む類のプロセスでは決してありません。現地法人経営者が策定する「正しい事業計画」、そのための「人や組織の課題設定」、現地従業員の特質・文化・傾向に即した「実践的かつ現実的な打ち手」、それらの実効性を高める「本社側の理解と支援」、そして何よりも「トップ自身の人間性」といった点が、駐在員を代替できる水準の現地幹部育成におけるカギになると考えます。

日系企業における海外進出の歴史は古く、海外オペレーションを長きに渡って行ってきている日系企業は相当数存在しています。しかし、そんな中でも、「なかなか良いスタッフが採用できない」「良いスタッフは採れても定着しない」「ある程度長い社歴のスタッフはいても幹部として任せられない」「そこそこ信頼できるスタッフも育ってきているものの責任のあるポジションへの登用に本社から許可が得られない」などなど、経営現地化・権限委譲のプロセスを鑑みた際、実際には様々な問題を抱えておられる企業がいらっしゃるかと思います。コロナ禍を経た今、日系企業はどういった状況にあり、何に悩み、また、どのような打ち手を考えようとしているのか?こうした点を今一歩踏み込んで調査し、考察すべく、次回「第3回 JAC Recruitment 合同グローバル人材戦略セミナー」(9月上旬開催予定)では、アンケート調査をもとにした企画を準備中です。

追って案内予定となるアンケート調査へのご協力、何卒よろしくお願い申し上げます。